チーム医療とは?
患者さん、支援を必要とする人、そしてご家族のために、さまざまな専門職が力を合わせて治療やケアを行うのがチーム医療。今は、保健・医療・福祉分野のどの専門職をめざすとしても、チーム医療は欠かせない考え方といえます。
「チーム医療」における主な専門職
チーム医療に関わる主な専門職の役割
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診察や検査の結果に基づいて、治療やリハビリテーションの方針を立てます。
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患者さんの身体の状態だけでなく、心の状態、入院生活での困りごとなど、入院・治療にかかわること全般をケアします。
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服用中の薬や、これからの治療に必要な薬を管理し、適切な薬物治療を提供するための服薬指導も行います。
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血液検査、エコー検査、心電図など病気の診断や治療に欠かせない検査やデータ分析を行います。
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座る、立つ、歩くなど基本的な動作能力が回復・維持できるようリハビリテーションを行います。
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カウンセリングや心理検査などを通して、患者さんを心理面からサポートします。
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話す、聞く、食べる、飲み込むといった日常生活に不可欠な機能に関するリハビリテーションを行います。
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着替えや料理などの応用的な動作や、社会参加に関するリハビリテーションで患者さんの社会復帰を支えます。
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医療や福祉について支援が必要な方への相談援助を行います。その方に合った暮らしを一緒に考えます。
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支援が必要な方や介護をする方に助言や指導を行うほか、介護サービスなどの相談にも対応します。
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対話や訓練などを通して、精神障がいのある方が社会的に自立できるようサポートします。
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病院や歯科医院、在宅での歯科診療・予防処置などを通して、口腔内だけでなく全身の健康を支えます。
「チーム医療」がもたらす効果とは?
多面的な患者さんへのサポートと、
多職種の協働から生まれるさまざまなメリット。
医療大生によるチーム医療プログラム
医療・福祉の現場ではさまざまな職種がかかわっています。治療から退院・社会復帰まで患者さんをどう支援するのか、ある架空の症例をもとに、北海道医療大学の在学生たちが各専門職の視点でディスカッションをしました。その一部を紹介します。
- 司会
- :臨床検査学科 3年生
- 薬剤師
- :薬学科 4年生
- 歯科医師
- :歯学科 4年生
- 看護師
- :看護学科 4年生
- 社会福祉士
- :福祉マネジメント学科 4年生
- 公認心理師
- :臨床心理学科 4年生
- 理学療法士
- :理学療法学科 4年生
- 作業療法士
- :作業療法学科 3年生
- 言語聴覚士
- :言語聴覚療法学科 4年生
- 臨床検査技師
- :臨床検査学科 3年生
※在学生の学年はプログラム実施時の学年です。
【 症 例 】
- 氏名
- :阿部由紀子さん(仮名)
- 性別
- :女性
- 年齢
- :20歳
- 職業
- :スキージャンプ選手
- 疾患名
- :前十字靭帯損傷(右)、下顎骨骨折
- 状況
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スキージャンプ練習中、着地に失敗し、前十字靭帯損傷(右)、
下顎骨骨折を受傷。
手術後の経過
手術後3日間:足に荷重をかけないようにし、下顎骨骨折は上下の歯列をワイヤーで結ぶ顎間固定が施行された。このため、口を大きくは開くことができず、食べ物をうまく噛むことができない。精神的な落ち込みも生じている。
手術の1週間後:リハビリテーション目的で北海道医療大学病院に転院。ただちに医師から理学療法、作業療法を勧められ、リハビリ開始。
今後について
選手復帰を希望している。
入院期間は1か月を予定。完治は半年から1年間と予想されている。
通常のバイタル
- 脈拍:68回/分 血圧:121/60mmHg
- 体温:36.5℃ SpO2:98% 体重42kg
服用薬剤
- Rp1
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ロキソニン錠60mg:1回1錠(1日3錠)
フロモックス錠100mg:1回1錠(1日3錠)
ムコスタ錠100mg:1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 7日分
治療(ケア)の目標を考えてみよう
各専門職として、どのような治療目標を設定しますか?まずは、下顎骨骨折が見られますから歯科医師、前十字靭帯損傷に関して理学療法士からの視点を教えてください。
選手復帰に向け、下顎骨の骨折の管理を行うことで、噛み合わせや話すこと、食べることの機能回復を目標にします。
長期目標は選手復帰。短期目標は、膝を伸ばす際に働く前十字靭帯が損傷しているため、腫れたり動きが制限されたりしているので、膝関節の可動域拡大と筋力増強のためのトレーニングを行います。
入院生活については、どのような支援が考えられますか?
患者さんはスキージャンプ選手への復帰をめざしているので、ご本人の希望に沿った支援を行いたいと考えています。また入院に際して経済的な負担もあると思うので、サポートしていければと思います。
どの学科も、患者さんの希望である選手復帰を一番に考えた治療やケアを掲げていましたね。
入院〜手術までの期間、
患者さんをケアするため
自分の職種は
どのようなことができるか考えよう
治療の目標を実現するために、どのようなことができるのか考えていくことにしましょう。入院から手術までの治療期間の前半に主に関わる職種では、どのような支援ができるのでしょうか。
全身状態を把握する確認検査や輸血を行うためのABO血液型検査などを行い、医師や看護師に情報提供をすること。また、栄養状態を確認しながら、栄養サポートチームと連携して情報共有をすることで支援します。
臨床検査技師から医師や看護師に情報提供をする、と回答がありました。では、看護師はどのような支援を行いますか?
看護師は薬剤師とは痛みの管理、歯科医師とは飲食や口腔ケアの支援を連携しながら行いますが、さらに心のケアや生活動作に対する支援も行っていきたいです。また、下顎骨骨折で上下の歯列をワイヤーで結ぶ顎間固定をしているので食事をするのが難しいと考えられます。そのため、流動食や点滴などで栄養を確保する必要があると感じます。歯磨きも難しくなると思うので、マウスウォッシュを使うことも考えます。患者さん本人が気持ちよく飲食できるよう支援を行う必要があります。
そのほか、治療の前半に連携して支援する主な専門職の役割を聞いていきましょう。
看護師や言語聴覚士と連携しながら薬の剤形や投与経路の変更を医師に提案したり、歯科医師や歯科衛生士、リハビリテーション職と連携して副作用の確認や、患者さんにも今飲んでいる薬やサプリをお聞きして飲み合わせについての確認を行います。症例を見ると患者さんは顎間固定をされているのですが、薬は錠剤です。錠剤は飲めないので散剤やシロップ、坐薬に変更する相談を看護師や医師としながら、柔軟な対応を行いたいです。
上下の歯列をワイヤーで結ぶ顎間固定は嚥下が制限されるため、口腔内の自浄作用が期待できません。そこで、言語聴覚士や歯科衛生士などと協力し、嚥下や口腔清掃を管理します。
患者さんとの信頼関係の形成をもとに、治療・手術や入院生活への不安感や疑問点についてよく聞き取りを行います。その解消のため、患者さんの同意を得てから治療に携わる他のスタッフに伝達し、信頼性の高い情報を患者さんに提供することが公認心理師の役割です。
患者さんの選手復帰への関わり方は職種によっていろいろあるのですね。
手術〜退院・社会復帰までの期間、
患者さんをケアするため
自分の職種はどのようなことが
できるか考えよう
手術をしてから退院・社会復帰するまでの治療の後半には、どのようなことができるのか考えていきたいと思います。まず、手術後に関わるリハビリテーションではどのような支援ができるのでしょうか。
膝関節の可動域と大腿四頭筋肉・ハムストリングスの筋力増強へのトレーニングに加えて、損傷した機能以外へもアプローチを行います。
患者さんにとって必要な動作や希望する動作ができるようになるために、必要な訓練を行います。精神的な落ち込みに対してはできることを増やして、患者さんに自信を取り戻していただきます。
この症例の患者さんにはどのような訓練が必要になるのですか?
まずは、トイレや入浴などの日常生活の動作ができなければ選手復帰はできないかなと思います。そのため、日常的な動作にアプローチをして、損傷した右足ではなく、左足でカバーするといった訓練を行います。
ありがとうございます。言語聴覚士はどのような支援を考えますか?
歯科医師、歯科衛生士と情報を共有し、回復に合わせて、食べる機能である摂食嚥下機能や、話す機能である構音機能の評価・訓練を行うのが言語聴覚士の役割。こちらの患者さんの場合は、現在、下顎骨を固定していますから、ワイヤーが外れた後に、何か問題はないかなどを評価し、機能が低下していたら訓練を行っていきます。
次に自宅での生活を支援する職種の役割を聞いていきましょう。
ご本人に精神的な落ち込みが生じているので、その気持ちに寄り添い、ご本人の今後の思いや生活への意向について直接お話を伺いたいと思います。退院して生活していくうえで、リハビリテーションのスタッフにリハビリテーションの状況を確認し、必要であれば自宅改修や福祉用具の活用について一緒に検討します。
症例の患者さんの場合、自宅改修を行うとすると重要な点は何になるのでしょうか。
ご自宅がどういう状態なのか、もし介護が必要になったときご家族など支援してくれる方がいらっしゃるのかなどを確認しつつ、ご本人の思いに寄り添い、他職種の方と連携しながら、また、経済的な課題が生じることもあるのでご本人と相談しつつ支援していくことが重要だと思います。
入院直後と、手術から退院・社会復帰までは、同じ職種でも支援方法や患者さんとの関わり方が違うということがわかリました。
多職種連携やチーム医療を
学ぶ意義は?
各職種のコメントからは、他職種との連携や情報共有が欠かせないことが感じられました。多職種連携・チーム医療について、また、チーム医療を学ぶことについて、在学生の皆さんはどう感じていますか?
この症例の場合で言うと、食事に関しては、多くの職種が連携して栄養サポートチームとして患者さんの栄養管理を行うことが考えられます。
そうですね。医薬品に分類される栄養確保の方法は薬剤師が、食品に分類される栄養剤については管理栄養士、看護師、臨床検査技師、薬剤師などが連携することになります。
スポーツ心理学という分野では、不安が強くなる原因の一つに、選手復帰の見通しが立たないことがあげられます。ですから、カウンセリングを行う場合もリハビリテーションなど他の職種の方との連携が必要ですね。
リハビリテーションを行う場合も、運動療法だけでなく、コミュニケーションを通して不安や本音を伺うことが重要だと思っています。また、リハビリテーションの効果は栄養状態とも深く関係しています。一人の患者さんへ関わるそれぞれの場面で、さまざまな専門職の視点や知識が求められることを、授業や実習を通して実感できる意義は大きいですね。
北海道医療大学では、医療や福祉の現場ではどんな職種が、どんな視点を持って、患者さんにどのように関わっていくのかを知ることができる多職種連携入門や全学連携地域包括ケア実践演習という、学科を越えての学びを用意しています。学科を越えて交流することで、他学科にも友達ができるなどネットワークが広がるメリットもあると思います。